債権回収の方法・流れ強制執行

強制執行とは?

日本のような法治国家では、法律に頼らず、個人が自分の力で紛争を解決することが禁止されています。そのため、国家は、紛争解決の手段として、民事訴訟という一応は公平かつ中立とされている解決手段を用意しています。民事訴訟では、権利者である債権者と義務者である債務者の当事者間において和解がなされたり、裁判所の最終的な判断である判決が言い渡されたりします。
もっとも、和解や判決のとおりに、お金を払ったり、建物を明け渡さない債務者もいます。このような場合に、お金の支払いや建物の明け渡しが記載された和解調書や判決など(これを「債務名義」といいます。)を基に、債権者が裁判所に申し立てることにより、強制的に債務者に義務を履行させる手続きがあります。
この手続きこそ、「強制執行」と呼ばれるものになります。

強制執行の種類について

強制執行は、お金の支払いを目的とする権利を実現するための「金銭執行」と、それ以外の権利を実現するための「非金銭執行」に分類されます。ここでは、主に、利用されることが多い「金銭執行」について詳しく見ていきましょう。

「金銭執行」は、大きく分けて、(1)債権執行、(2)不動産執行、(3)動産執行に分類されます。

(1)債権執行

債権執行とは、債務者が有する第三者に対する債権を差し押さえ、必要があればこの債権を換価して債務者の債務の弁済に充てる執行手続きです。
債務者が個人の場合には、給与債権や預金債権が対象となることが多いです。他方、債務者が事業主や企業の場合には、売掛金債権や貸与金債権が差し押さえの対象となることが多いです。なお、金銭債権以外の特許権や株式なども対象となりますが、これらの権利の場合には、金銭債権ではない以上、換価手続きを経る必要があります。

(2)不動産執行

不動産執行とは、①債務者が所有する土地や建物などを売却してその代金によって債権回収を図る強制競売と、②債務者が所有する土地や建物などから生ずる賃料などから債権の回収を図る強制管理の2つの側面を併せ持つ執行手続きです。
債務者が所有する自宅や自社ビルが対象となることが多いです。債務者が所有する土地や建物の共有持分(※1)、登記された地上権(※2)や永小作権(※3)及びこれらの権利の共有持分も対象となります。

  1. ※11つの物を複数の人が所有している場合における、各所有者1人ずつの所有割合のことをいいます。
  2. ※2工作物又は竹木を所有するために、他人の土地を使用する権利のことをいいます。
  3. ※3小作料を支払って他人の土地において耕作又は牧畜をする権利のことをいいます。

(3)動産執行

動産執行とは、債務者の所有する動産を差し押さえて、これを換価して、その売却代金によって債権回収を図る執行手続きです。
債務者が所有する現金(※4)、貴金属、株券、小切手、美術品、未登録自動車(※5)などが対象となります。
なお、総トン数20トン以上の船舶、登録航空機、登録自動車、登録建設機械、登録小型船舶については、一般的に価値が高いことや、公的な登録制度が整備されているため、民事執行法においては不動産に準ずる扱いがなされています。

  • ※4債務者の手元に66万円を残す必要があります。つまり、債務者が66万円を超える現金を保有していなければ、現金に対する執行はなされません。
  • ※5軽自動車、小型特殊自動車及び二輪の小型自動車については、自動車登録ファイルに登録することができないので、いずれも動産執行の対象となります。

(4)差し押さえできない財産

公的年金は全額が差し押さえ禁止となっています。他方、債務者の生活を保障するために、私的年金は4分の3が差し押さえ禁止となっています。また、給料、賃金、俸給、退職金、賞与なども、同様に4分の3が差し押さえ禁止となっています。ただし、婚姻費用や養育費の回収を目的とした差し押さえに関しては、被扶養者の生活を保障するために、給料などの2分の1を差し押さえることができます。

衣服、寝具、家具、台所用具などの債務者の生活に欠くことができないものは、差し押さえ禁止となっています。債務者の職業に応じて、その業務を遂行する上で欠くことができないものは、差し押さえ禁止となっています。位牌や日記なども差し押さえ禁止となっています。

(5)まとめ

いままで述べてきた強制執行の種類と差し押さえの対象となるものをまとめると、次のようになります。

強制執行の種類 差し押さえの対象となるもの
債権執行 給与債権、預金債権、売掛金債権、貸与金債権、特許権、株式など
不動産執行 自宅、自社ビル、土地や建物の共有持分、登記された地上権又は永小作権及びこれらの権利の共有持分など
動産執行 現金、貴金属、株券、小切手、美術品、未登録自動車など

強制執行に必要な債務名義について

強制執行がなされる以上、債務者が和解や判決などで定められた義務を履行していないことになりますから、簡易迅速に債権者の権利の実現を図る必要があります。ただし、強制執行は、強制的に債務者に義務を履行させるという国家権力の私人に対する介入の程度が大きいものですから、国家権力の乱用を防ぎ、適正な強制執行をするための根拠が必要となります。その根拠が「債務名義」と呼ばれるものになります。
債務名義とは、請求権の存在、請求権の範囲、債権者、債務者を表示した公的な文書のことです。
例えば、確定判決(※6)、仮執行宣言付判決(※7)、執行証書(※8)、和解調書、支払督促(※10)などがあります。

  • ※6「被告は、原告に対し、〇〇円を支払え。」というような記載のある判決(これを「給付判決」といいます。)で、より上級の裁判所に対する上訴ができない状態に達した判決のことをいいます。
  • ※7給付判決で、より上級の裁判所に対する上訴ができる状態である場合であっても、判決内容を仮に強制的に実現することができる判決をいいます。
  • ※8お金の支払いなどを目的とする請求に関するもので、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されている公正証書のことをいいます。
  • ※9お金の支払いなどを目的とする請求に関するもので、簡易裁判所の書記官が発する処分のことをいいますが、簡易裁判所の書記官が発した段階では債務名義とはなっていません。債務者が支払督促の送達を受けてから2週間以内に督促異議を申し立てなければ、債権者の申し立てによって支払督促に仮執行宣言が付されます(これを「仮執行宣言付支払督促」といいます。なお、仮執行宣言付支払督促も債務名義となります。)。債務者が仮執行宣言付支払督促の送達を受けてから2週間以内に督促異議を申し立てなければ、この段階で債務名義となる支払督促となります。

改正民事執行法(令和2年4月1日)で、債権回収がより簡単に!

強制執行を行うためには、その対象となる財産を特定して、申し立てを行う必要があります。強制執行の対象を特定するために利用される手続きが、財産開示手続となります。
これまでの財産開示手続は、次のような問題点があり、年間500~1,000件程度の利用しかありませんでした。

  • 債務者が財産開示に応じない場合の罰則は、30万円以下の過料にすぎず、財産開示手続には実効性に欠けることが指摘されていました。
  • 債務名義のうち、仮執行宣言付判決、執行証書、支払督促については、財産開示手続を利用することは認められていませんでした。
  • 債務者以外の第三者機関から情報開示を受けることができませんでした。

もっとも、令和元年に行われた民事執行法の改正により、先ほどの問題点が次のように改善されることになりました。

  • 債務者が財産開示に応じない場合の罰則は、6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金に引き上げられ、実効性が高まりました(既に検挙事例があることが報道されています。)。
  • 債務名義の種類に基づく制限は撤廃され、仮執行宣言付判決、支払督促、執行証書が債務名義の場合でも、財産開示手続を利用することが認められました。
  • 債務者のみならず、不動産に関する情報は登記所に、給与債権に関する情報は特別区を含む市町村や日本年金機構などに、預貯金債権などに関する情報は金融機関などの第三者機関に対して、情報提供を求めることができるようになりました(ただし、登記所の情報提供制度については、令和3年4月現在、未施行です。)。

これらの点をまとめると次のようになります。

① 罰則
改正前 30万円以下の過料
改正後 6月以下の懲役
又は50万円以下の罰金
② 債務名義
改正前 仮執行宣言付判決、執行証書、支払督促の場合には、利用不可
改正後 制限なし
③ 情報提供元
改正前 債務者のみ
改正後
  • 債務者
  • 第三者機関
    不動産に関する情報
    登記所
    給与債権に関する情報
    特別区を含む市町村又は日本年金機構など
    預貯金債権などに関する情報
    金融機関など
改正前 改正後
① 罰則 30万円以下の過料 6月以下の懲役又は50万円以下の罰金
② 債務名義 仮執行宣言付判決、執行証書、
支払督促の場合には、利用不可
制限なし
③ 情報提供元 債務者のみ
  • 債務者
  • 第三者機関
    不動産に関する情報
    登記所
    給与債権に関する情報
    特別区を含む市町村又は日本年金機構など
    預貯金債権などに関する情報
    金融機関など

なお、令和元年に行われた民事執行法の改正の詳細について知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

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