債権の時効について

令和2年4月1日から、消滅時効のルールが変更に

令和2年4月1日から、消滅時効の制度が大きく変わりました。時効期間が経過してしまうと、せっかくの債権も意味がないものとなってしまうかもしれません。時効の知識は債権を保全するのに必要不可欠です。

消滅時効期間の一例

消滅時効というのは、権利が行使されないまま一定の期間が経過した場合、その期間の経過によって権利が消滅してしまう制度のことですが、その期間は次の表のとおり法定されています。

債権の
内容
行使できると知ったときから 行使できるときから
令和2年3月31日以前に
生じた債権
令和2年4月1日以降に
生じた債権
令和2年3月31日以前に
生じた債権
令和2年4月1日以降に
生じた債権
飲食代金、
宿泊費など
- 5年 1年 10年
動産の一時的なレンタル代金 - 5年 1年 10年
不動産の賃料 - 5年 5年 10年
生産、
商品の売買代金
- 5年 2年 10年
労働賃金、
残業代の請求権
- - 3年
(当面の間)
支払時期が令和2年4月1日以降の債権のみ。それより以前は、2年
3年
(当面の間)
塾の授業料 - 5年 2年 10年
弁護士の報酬 - 5年 2年
(ただし事件終了時から)
10年
医師の診療費 - 5年 3年 10年
建築工事の
請負代金
- 5年 3年
(ただし工事終了時から)
10年
離婚慰謝料 3年 3年 20年 20年
扶養料
(養育費など)
- 5年 5年 10年
借金
(銀行や貸金業)
- 5年 5年 10年
借金
(個人間)
- 5年 10年 10年
生命又は身体に対する不法行為による損害賠償請求 3年 5年 20年 20年
商取引債権 - 5年 5年 10年

注意が必要なのは、「令和2年3月31日以前に生じた債権」の意味です。この債権には、令和2年3月31日以降に生じた債権であっても、その原因である法律行為が令和2年3月31日以前に行われた場合も含むとされています。 例えば、平成31年1月1日に賃貸借契約を結び、その契約に基づいて、令和2年5月1日~31日まで部屋を利用したとしましょう。この場合、令和2年5月分の家賃の債権は、通常は令和2年5月に発生することになります。しかし、その原因となる法律行為(本件でいえば、賃貸借契約)は、平成31年1月1日に締結されていますので、令和2年5月に発生した家賃であっても、「令和2年3月31日以前に生じた債権」として取り扱われることになります。この点、誤解しやすいところですので、注意が必要です。

なお、上記のルールは、改正後の民法が適用される場合のルールとなります。雇用契約の場合における残業代等は労働基準法が適用されますので、雇用契約が平成31年1月1日に結ばれていたとしても、令和2年4月1日以降に発生した賃金請求権には、改正された労働基準法が適用されます。そこで、令和2年4月1日以降に発生した賃金債権については、改正労働基準法の下での消滅時効期間が適用されます。

消滅時効期間の起算点

(1)改正前の消滅時効の起算点

改正前の民法は、「消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する」(改正前民法166条1項)と時効の起算点を規定していました。したがって、不法行為の場合等の例外を除き、権利を有する者が、「権利を行使することができる」と認識していたか否かは時効の起算点を考えるにあたって問題にはなりませんでした。

(2)改正後の消滅時効の起算点

一方で、改正後の民法は、債権の消滅時効の起算点及びそれに対応する時効期間を、二つに分けています(民法166条1項)。

  • ① 権利を行使することができる時から10年間
  • ② 権利を行使することができることを知った時から5年間

この改正によって、客観的に権利を行使することができる時から10年と、権利を有する者が権利を行使することができることを「知った時」から5年間と二つの起算点が定められることになりました。

売買契約を結び、平成31年1月1日が売買代金の支払い日だった場合を考えてみましょう。この場合、改正前の民法であれば、平成31年1月1日の10年後、すなわち、令和10年12月31日の経過によって、売買代金請求権の時効期間が経過することになります。これは、売主が平成31年1月1日が売買代金の支払い日だと知っていた場合も同様です。
しかし、民法の改正によって、仮に売主が、平成31年1月1日が売買代金の支払い日だったと知っていた場合は、令和5年12月31日の経過によって、売買代金請求権は時効によって消滅してしまうことになります。売買契約のような場合は、いつが支払い日かわかるのが通常ですので、今後は5年と考えて対応していく必要があると言えます。

時効を止める方法は?

権利が消滅してしまうと困るときは、時効が完成するのを止めなければなりません。時効を止める方法について、改正前の民法では、時効の中断及び停止という2種類の制度を規定していました。しかし、言葉の意味が分かりにくく、制度の仕組みも容易に理解できないなどの問題がありました。そこで改正された民法は、これらを時効の完成猶予と更新の制度に整理しました。

時効の完成猶予

時効の完成猶予とは、法律で定められた事実があったときに、その事実が終了し又は確定判決等によらずして権利関係が確定することなくその事実が終了した時から6か月が経過するまでは時効が完成しないという制度です(民法147条等)。時効の完成猶予事由とされているのは、裁判上の請求、強制執行、仮差押え及び催告等があります。
例えば、令和3年12月31日に時効にかかってしまう債権について、同年12月30日に裁判所に訴えを提起したとしましょう。そして、令和4年1月10日に訴えを取り下げた場合、本来は令和3年12月31日に時効にかかってしまうはずの債権が時効にかかっていないことになります。訴えを取り下げた時から6か月経過するまで、時効の完成は猶予されることになります。これが時効の完成猶予の制度です。

時効の更新

時効の更新とは、法律で定められた事実があった時に、その事実が生じた時から、新たに時効が進行するとの制度です。裁判の確定、承認等があります。
先ほどの例を考えてみましょう。令和3年12月31日に時効にかかってしまう債権について、同年12月30日に、債務者がこの債権があると承認したと考えます。この場合、民法152条によって、その時から新たに時効の進行が始まります。これが時効の更新の制度です。

どのような事実が時効の完成猶予事由なのか、時効の更新事由なのかを確認して、消滅時効が迫ってきた時には適切に対応していく必要があります。
時効制度は、分かり易くなった部分があるとはいえ、どのタイミングでどの措置を執るか、ということについては、弁護士にも相談をして、万が一にも権利が消滅時効によって消滅してしまうことのないように対応されることをお勧めします。

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