債権回収の方法・流れ民事調停

民事調停とは?

(1)民事調停の制度目的

民事調停手続き(以下「民事調停」といいます。)は、民事調停法(以下「民調法」といいます。)という法律に定められています。司法統計によれば、令和元年度の民事調停事件の新受件数は32,919件ですので、まあまあ利用されている制度といえるでしょう。民調法1条は、「この法律は、民事に関する紛争のにつき、当事者の互譲により、条理にかない実情に即した解決を図ることを目的とする。」と定めていますが、民事調停の特色をよく表しています。

すなわち、民事調停とは、

  • 対象となるのは、民事に関する紛争について
  • 当事者がよく話し合って譲るべきは譲り合い
  • 必ずしも法律にしばられず実情にあった円満な解決を

目指すものといえるでしょう。

(2)民事調停委員会

民事調停は、通常、裁判官と2名の民事調停委員(以下「調停委員」といいます。)で構成される民事調停委員会(以下「調停委員会」といいます。)が進行を担い、当事者の主張を聞き、必要に応じ事実の調査や資料の収集等も積極的に働きかけながら、当事者の合意形成を目指します。調停委員は、当該紛争解決に必要とされる専門的知識・経験を有する者や豊富な職業経験・社会経験を有する者が一般市民から任命されています。

(3)債権回収における民事調停の利用

民事調停も、債権回収を図るうえで有効な法的手段といえます。調停委員という第三者が間に入ることで当事者が冷静になって弁済に応じるということもあります。また、訴訟手続きだと証拠による立証が厳格に求められますが、民事調停では、当事者が合意しさえすれば、債権回収の実現が可能となります。他方、話し合いで合意するためには、互いの譲歩が必要ですので、民事調停は、飽くまでも債権額の満額を回収したいという場合には適していないといえるでしょう。

民事調停の手順・手続き

(1)簡易裁判所に申立書を提出

民事調停は、原則として、相手方の住所等を管轄する簡易裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所又は簡易裁判所に対して、調停申立書を提出して申し立てます。調停申立費用は一般の訴訟手続きの約半額とされています。調停が不成立になった事件について、申立人が原告として訴えを適法に提起した場合(不成立の通知を受けた日から2週間以内の提起)、その訴えは、調停申し立ての時に訴えの提起があったものとみなされますし(民調法19条)、民事調停の申し立て時に納付した手数料は、移行した訴訟手続きの手数料に通算されることになっています。

(2)調停委員の指定

民事調停では、専門的な争点や問題点を含むような事件では、その分野の知見を持った調停委員が指定されます。例えば、税務や企業の財務等に関して専門的知識を必要とする事件では公認会計士、不動産評価が争点になる事件では不動産鑑定士、医療過誤事件では医師等が調停委員に指定されることもあります。このように調停委員会は、法律問題、専門分野の問題、社会一般の問題に精通しているプロ集団であるといえます。また、当然ながら、調停委員は守秘義務を負っています(民調法38条)。なお、民事調停の公正性を確保する観点から、調停委員についても除斥及び回避の制度が規定されています(民調法9条1項、同規則4条)。

(3)呼出状が届く

民事調停の申し立てがあると、裁判所では調停期日を決定した上で、相手方に調停期日の呼出状を送付します。実務では、呼出状の他、調停申立書の写し、申立人が提出した証拠資料の写しも同時に送付しています。期日呼出しを受けた事件の関係人が正当な理由もないのに出頭しないときは、5万円以下の過料に処せられます(民調法34条)。不出頭の当事者が法人であるときは、調停委員会が呼び出した代表者に対し、過料に処することになります。

(4)調停期日

民事調停は、裁判所庁舎内の調停室で行われるのが原則です。しかし、例えば建物の瑕疵の現状を確認する必要があると判断されるとき等は、裁判所外の現地で行われることもあります。調停期日では、調停委員会は、当事者双方の主張を聞くとともに、事実の調査のための事情聴取を行います。事情聴取の方法としては、当事者双方から交互に聞く場合もあれば、同席で聞くこともあり、柔軟に行われています。事情聴取の範囲は、一般の訴訟手続きと異なり、申し立て事項だけでなく、紛争の背景事情等幅広いものとなっています。また、証拠調べも調停委員会が必要と認めるときは、職権でなすこともできるとされています(民調法12条の7第1項)。これらは、調停委員会が紛争の背景事情等を踏まえた実情を把握した上で、当事者の納得する解決案を探求するために行われています。

(5)調停の成立及び不成立並びに調停に代わる決定

民事調停で、調停委員会と当事者とが話し合いを進める中で、当事者の合意ができ、調停が成立すると、その調停事項に関する合意内容の効力は確定判決と同一の効力を持つことになります(民調法16条)。すなわち、調停調書は債務名義となりますので、当事者の一方が合意した調停事項の給付内容を履行しないときは、相手当事者は強制執行の申し立てができることになります。
他方で、調停成立の合意ができないときは、調停不成立となり、申し立ての目的は達成できないことになります。
例外的に、裁判官がそのまま調停不成立とすることが当事者にとっても相当でないと判断するときは、調停の合意に代わり、必要な決定を職権ですることができます(民調法17条)。この決定のことを実務では、条文にちなみ「17条決定」と呼んでいます。金銭の支払、物の引き渡しその他財産上の給付を命令できることから、債務弁済協定、貸金、立替金、損害賠償の各請求事件で多く活用されています。

民事調停のメリット・デメリット

民事調停に対する評価は、法律相談をした場合、弁護士によってまちまちでしょう。調停不成立の場合や17条決定があって異議申し立てがなされた場合は、結局訴訟になるから、最初から訴えを提起した方がよいという弁護士もいます。他方、費用も節約でき、かつ、簡易な手続きであるとして民事調停をよく利用する弁護士も少なくありません。民事調停のメリット・デメリットは、一般的には以下のとおりですが、訴訟手続きとの比較から指摘されているといえるでしょう。

(1)民事調停のメリット

  • 申し立て手続きが簡単で申し立て費用も安い。
  • 非公開であるため、プライバシーが保護される。
  • 紛争の背景事情等を踏まえた当事者間の実情に即した全体的な解決か可能である。
  • 債務名義の取得も可能である。

(2)民事調停のデメリット

  • 相手方の欠席があると調停を成立させることができない。
  • 合意がないと調停成立とならず、紛争の解決ができない。
  • 異議申し立てにより通常の訴訟に発展してしまう。

まとめ

社会生活における紛争は、ときに当事者間の感情的対立が激しく、一般の訴訟手続きで法的に白黒の判断を付けただけでは真の紛争解決にならないこともあります。

社会生活における紛争のうち多いものとして、金銭貸借に関する紛争があります。友人や知人、親族に対する貸金については、金銭貸借契約書を締結することは稀でしょう。
また借用書はあるものの、返済期限や利息の定めもあいまいなことが多く、紛争の原因となっています。貸主としても人間関係の悪化を懸念し、訴訟を提起してまでも相手と争うことをためらうケースも多いと思います。
また、訴訟を提起し、貸金の支払いを命じる給付判決を得たとしても相手方が意地になってこれを履行しないときは、原告は強制執行の申し立てをする必要がありますので、さらに紛争解決のための時間と費用がかかってしまうことにもなります。その点、民事調停において当事者間で支払いの合意の調停が成立したなら、相手方も納得している以上、支払いが履行されることを期待できます。

「裁判するぞ!」という宣戦布告をするよりは、「じゃ、裁判所に間に入ってもらって話し合いをしましょう」という方が当事者の紛争解決には適している紛争もあるといえるのではないでしょうか。
納得して約束したことは守るというのが人間の本質的な行動志向といえるのなら、民事調停は、その本質的なものに着眼した制度といえるのかもしれません。

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