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    公開日:2020.10.30
    更新日:2022.06.27
    【民事執行法改正】預貯金債権の情報取得手続はどのような制度?

    【民事執行法改正】預貯金債権の情報取得手続はどのような制度?

    金銭債権の回収を目的として訴訟を提起し、勝訴判決を得たとしても、対象となる債務者の財産が特定できなければ、強制執行をして権利を実現することはできません。
    平成15年の民事執行法(以下「法」といいます。)改正で財産開示手続が創設され、債務者自身に債務者財産を開示させることが制度的に可能になりましたが、罰則が軽微であること等の理由から有効に機能してきたとは言い難い状況でした。

    そこで、今回、債務者の財産状況の調査に関する制度の実効性を向上させること等を企図して法改正がされました。

    本コラムでは、新たに創設された債務者の預貯金又は振替社債等(以下、預貯金又は振替社債等を併せて「預貯金債権等」といいます。)に係る情報を取得する手続きについて解説します。

    • 情報取得手続
    • 預貯金債権

1、預貯金債権等に係る情報取得手続の概要

債務者の預金に対して債権執行をするためには金融機関の支店名を特定しなければならないため、従来、債権者は、弁護士法23条の2による照会(以下「弁護士会照会」といいます。)により、金融機関に対して当該支店における預貯金債権の有無や残高等の照会を行ってきました。もっとも、上記照会に応じるかどうかは個々の金融機関の判断に委ねられており、上記照会がすべての金融機関に対して有効に機能しているとはいえないのが実情です。
また、取引する金融機関が多数に及ぶ場合、探索的差押えをして当該金融機関に割りつけられた部分の差押命令が空振りに終わると、再度の差押えを行うまでに債務者が財産を移転させてしまう危険があります。
今回、上記事情を踏まえて、金融機関に対して債務者財産についての情報開示義務を負わせる制度が創設されることとなりました。

情報提供をすべき第三者 取得できる情報
銀行等(銀行、信金、労金、農協等)、振替機関等(証券保管振替機構、日本銀行、証券会社等)。(法207条1項)。 預貯金債権の存否、取扱店舗、預貯金債権の種別、口座番号、額。振替社債等の存否、銘柄、額又は数。(民事執行規則191条)。


金融機関には外国銀行の国内支店は含まれますが、国内に本店を持つ金融機関の国外支店における情報は、それぞれの金融機関の管理システムの整備状況によります。
また、銀行から取得する情報には「店舗」も含まれるので(民事執行規則191条1項)いわゆる全店照会が可能となります。もっとも、生命保険契約・損害保険契約の解約返戻金請求権は対象外です。

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2、手続きの要件

預貯金債権等に係る情報取得手続は強制執行の準備として行われるものであることから、基本的には財産開示手続に関するものと同様の規律になっています。具体的には、執行力のある債務名義の正本を保有していること、または、一般先取特権を有することを証する文書を保有していることが必要です。

  1. (1)債務名義

    執行力のある債務名義の正本を保有している場合、債務名義は、確定判決はもとより仮執行宣言付判決、仮執行宣言付支払督促、執行証書(強制執行受諾文言付公正証書)など金銭債権についての強制執行の申立てに必要とされる債務名義であれば構いません。
    債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を保有している場合は、当該文書を提出することが必要です(法207条2項、197条2項)。

  2. (2)強制執行の不奏功等

    財産開示手続との類似性から、強制執行又は担保権の実行における配当等の手続きにおいて申立人が完全な弁済を得ることができなかったとき又は知れている財産に対する強制執行を実施しても申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったとき等、強制執行の不奏功等の要件が必要です(法207条1項、197条1項)。

  3. (3)財産開示手続の前置は不要

    もっとも、債務者の財産隠しの危険を避けるため、不動産及び給与債権に関する情報取得の手続きとは異なり、預貯金債権等に関する第三者による情報取得手続においては、財産開示手続の前置は必要とされていません。

3、手続きの流れ

債権者は、情報提供を命じられるべき者の氏名・名称、債務者を特定するための事項等をできる限り記載して、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所に対して申立てをします(法204条、207条1項2項。
執行裁判所は、規定の要件が満たされた場合には、金融機関に対し、情報の提供をすべき旨を命じなければなりません(法207条1項2項)。

もっとも、不動産及び給与債権に関する情報取得手続とは異なり、財産隠しの危険を回避するため、債権者の申立てを認容する決定がされても当該決定は債務者には送達されません。

金融機関は、上記決定を受けて、情報提供書(回答)を執行裁判所に送付し、執行裁判所が債権者にその写しを送付します(法208条1項2項)。実務上は、金融機関から債権者に情報提供書(写し)が直送されることも想定されているようです(規則192条2項)。

執行裁判所は、金融機関から情報提供書面を受け取ってから1か月程度の後、債務者に対して債権者の申立てを認容する決定に基づいて情報の提供がなされた旨を通知します(法208条2項)。債務者に対しては、単に情報の提供があった旨の通知がなされるだけですので、債務者が情報提供の内容を確認するには、閲覧請求の手続き(法17条)を行う必要があります。

4、手続きの選択

債務者の財産状況を把握するためには、財産開示手続と金融機関からの情報取得手続、弁護士会照会のいずれを選択するのか判断に迷うこともあるかと思います。
財産開示手続と情報取得手続は実施要件を満たす必要がある一方で、弁護士会照会は不奏功等の要件が課されていませんし、債務者への告知も予定されていません。他方、情報取得手続は、情報開示に対する強制力の点で弁護士会照会に勝ります。
また、財産開示手続は金融機関に対する情報取得手続と異なり、実施期日までに時間がかかる一方で、開示される情報量は豊富です。
債権者は、債務者の事情や債務の額等に応じて各手続きを検討することになるでしょう。

5、まとめ

預貯金債権等に関する情報取得手続の創設により、債権回収の実効性が高まることが期待されています。
もっとも、その手続きには法的な知識が不可欠です。ベリーベスト法律事務所では、これまでさまざまな執行手続きを多数取り扱っております。回収にお悩みになっている債権がございましたらぜひご相談ください。

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