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賃貸に出した住宅について賃貸借契約を結ぶときには、相手方の資力について賃貸人による入居審査が行われます。このとき、賃貸人は家賃の支払い能力に問題がないと判断して賃貸借契約を結ぶはずですが、何らかの理由で家賃を滞納されることがありえます。
「振込期日を勘違いしていた」などの理由で入金が数日遅れることはよくあると思いますが、それ以上に滞納している場合は督促をしなければなりません。今回は、滞納家賃を回収するための督促方法や法的手段の方法について、弁護士が解説します。
滞納家賃を督促するときには、まず電話や文書などを利用して任意で支払ってもらうよう請求します。その後、相手方に支払意思があるかどうか、任意退去に応じるかどうかで対応の仕方がわかれます。
なお、家賃の管理を賃貸人が行っている場合は、督促は賃貸人自身が行うのが原則です。家賃の回収を不動産会社(管理会社)に委託したい場合は、集金代行契約などを別途結ぶことが必要ですが、単なる集金の代行に留まらず、賃貸借契約の解除などについて入居者と交渉するようなことは弁護士でなければできないことに注意が必要です。
まず、滞納している家賃を支払うよう入居者に督促します。督促は電話や直接訪問、文書などどのような手段でもできますが、言った・言わないのトラブルを防ぐためにも書面で督促状を送るほうがよいでしょう。督促状を送付する場合は支払いに応じるまで複数回送付します。電話の場合は相手が電話に出なければ留守番電話に家賃を支払ってほしい旨を吹き込んでおくとよいでしょう。
数回にわたり督促状を送っても支払いに応じない場合は、賃貸借契約を解除する旨を記した契約解除予告通知書を内容証明郵便で送付します。内容証明郵便を利用することにより、貸主が入居者に解除予告通知書を送ったことを郵便局が証明してくれるので、のちに裁判になったときに督促を行ったことを示す有力な証拠となります。
この段階で相手方が滞納していた家賃を全額支払ってきた場合は、相手方と確約書を取り交わします。ここでいう確約書とは、今後はいかなる理由があっても二度と家賃を滞納しないことや、再び家賃を滞納することになれば賃貸借契約を解除し部屋を即座に明け渡す旨を確約させるものです。
このような確約書を取っておけば、次に滞納があったときに、賃貸借契約の解除がやりやすくなるなどのメリットがあります。
契約解除の予告通知書を受け取って相手方が自ら退去しようとする場合は、賃貸借契約を解約します。部屋の荷物を置いていく場合は、残置物放棄書をあわせて取り交わします。これは、部屋の荷物の所有権を放棄するとともに、処分方法や費用負担について一切異議を唱えないことを確約させるものです。滞納した家賃を分割払いにしてほしいとの希望があれば、約束通りの期日に支払うことを約束させる分割払い確約書も締結しましょう。
期日どおりに滞納家賃を支払おうという意思もなく、退去もしようとしない場合は、これ以上任意で請求しても、滞納家賃を回収することは難しいでしょう。そのため、このような場合には法的手続きに踏み込むことになります。
入居者が滞納家賃の支払いもせず、退去しようともしない場合は、法的措置を取ることになります。法的措置については、滞納家賃の支払いのみを求めるのか、強制退去まで求めるのかにより取るべき方法が異なりますので見ていきましょう。
「できればこのまま住み続けてほしいので、滞納している家賃さえ支払ってもらえればいい」という場合は、まずもっとも簡易的にできる支払督促を利用します。支払督促とは、債権者の申立てにより裁判所が債務者に通知をして支払を命じてくれるものです。
相手方には支払督促について異議申し立てできる期間が2週間与えられています。入居者から特に異議がなければ裁判所から仮執行宣言付支払督促が出され、1か月半ほどで終了しますが、異議申し立てがあれば訴訟に移行します。
任意請求でうまくいかない場合は、民事調停を申し立てる方法もあります。調停とは、裁判官1名と有識者などから選出された2名から構成される調停委員会の仲介のもと、当事者同士が話し合うものです。調停委員会が両者から交互に主張を聞いた上で妥協できるポイントを探り、解決策を提案します。
当事者双方が合意すれば調停成立となり、合意内容をまとめた調停調書が作成されますが、両者が合意できない場合は調停不成立となり、請求をあきらめるのではない限り、訴訟に移行します。
支払督促をして相手方から異議申し立てがあった場合は訴訟になります。もしくは支払能力があるのにわざと支払わないなど悪質な場合は、いきなり訴訟を申し立てる方法もあります。債権回収に関する訴訟には、少額訴訟・通常訴訟があります。
<少額訴訟>
少額訴訟とは、訴額が60万円以下の場合に利用できる訴訟手続きのことを指します。少額訴訟の場合は、申立先は簡易裁判所になります。
ふつうの訴訟は申し立てから終わるまで半年〜1年ほどの期間がかかるので、ある程度長期戦になることを覚悟しなければなりません。他方、少額訴訟は証拠調べと審理が1日で終わり、即日判決が言い渡されるので、スピーディーな問題解決が期待できます。また、相手方が出廷すれば期日の当日に分割払いで支払っていくことで和解を成立させることも可能です。ただし、1日で結審する分、事実関係が複雑な案件や証拠資料の数が多い案件には少額訴訟は向きません。
<通常訴訟>
滞納家賃が60万円を超える場合は、通常訴訟になります。通常訴訟の場合、賃貸人の住所地を管轄する裁判所に申し立てることができ、同時に退去を請求することもできます。ただし、訴訟自体も半年〜1年ほどの時間がかかりますが、申し立てから訴訟が始まるまででも1か月以上かかる点がデメリットです。
「これ以上滞納するなら出て行ってほしい」と考える場合は、裁判で部屋を立ち退くよう請求するための明け渡し訴訟を行います。また、明け渡し訴訟と同時に滞納家賃の支払い請求もできます。
明け渡し訴訟には以下の書類が必要です。
上記のほか、予納郵券や収入印紙も必要となります。
申し立てから初回の口頭弁論期日までに1か月ほどかかります。期日に相手方(被告)が出頭しないケースも少なくありませんが、出頭しない場合は原告の主張が全面的に認められて勝訴となる可能性が高いです。その場合はその後10日ほどで勝訴判決が出て、更に判決言渡しから2週間後に判決が確定します。一方、相手方が出頭した場合は、その場で和解が成立することもありますが、その場合は和解調書が作られます。
家賃を滞納している入居者へ支払いを督促する方法によっては違法となり、逆に損害賠償を請求されてしまう可能性もあります。そのため、督促する際には細心の注意を払うことが必要です。
督促状を送付する際は、滞納している期間によって書き方のトーンを変えましょう。最初は穏やかなトーンにしますが、滞納期間が長くなるにつれて徐々に厳しいトーンへと変化させます。
<滞納している期間が1週間以上の場合>
タイトルを「賃料について」などにし、きつい印象を与えないようにします。あくまでも支払いを思い出させることを目的とするため、特に期日などは設けず振込先と金額をのせるにとどめます。
<滞納している期間が2週間以上の場合>
「賃料の未払いについて」など、未払いなので早く支払ってほしい旨の意図が伝わるタイトルや内容にします。「○月○日までに支払いのない場合は連帯保証人(もしくは保証会社)に連絡する」などと入れておくと、相手方に心理的なプレッシャーになるでしょう。
<滞納している期間が1〜2か月以上の場合>
ここまでくると意図的に支払っていない可能性があるので、「○○円を滞納しており入金確認がとれていない。賃貸借契約の解約も検討する」など、毅然(きぜん)とした態度の伝わる文面にします。なお、滞納期間が1か月を超えたときは、連帯保証人(もしくは保証会社)にも連絡したほうがよいでしょう。
<滞納している期間が3か月以上の場合>
3か月以上滞納している場合は賃貸借契約の解約も検討していること、期日までに支払いのない場合は法的措置も辞さないことを伝える文面にします。
令和2年4月1日に施行された改正民法では、遅延損害金の利率は5%から3%に引き下げられ、3年を1期として1期ごとに変動する変動制へと大きく変わりました。しかし、これはあくまでも任意規定なので、賃貸借契約書では異なる利率にすることが可能です。ただし、消費者契約法では遅延損害金の利率は年14.6%までと上限が決まっているので、特に居住用の賃貸物件では、この利率を超えないようにしなければなりません。
ドアやポストに滞納家賃を督促する旨の張り紙をしたりするなど、第三者にわかるように督促するのは違法です。また、勤務先や学校などにもむやみに電話や直接訪問するなどして督促をする行為もしてはなりません。これらの行為はかえって大きなトラブルを招くリスクがあります。
早朝や深夜(おおむね21時〜翌朝8時頃)に訪問する、長時間居座って帰らない、1日に何度も催促の電話をするなど、相手方に恐怖心を与えるようなこともしてはなりません。また、勝手にカギを交換するような実力行使もできません。これらの行為も違法行為とされ、逆に貸主側が入居者側に訴えられる可能性があります。
「滞納家賃の督促はできればしたくない」とお考えの賃貸人もいるかもしれません。直接督促しても相手方に容易に応じてもらえない可能性が高いと予想される場合や、そもそも自ら督促すること自体が煩わしいと感じられる場合、督促は弁護士に任せたほうがよいでしょう。
貸主(賃貸人)が直接入居者に滞納家賃を支払うよう言うより、弁護士が代理人として入居者にコンタクトを取るほうがよいでしょう。そうすれば、入居者も法的手続(支払督促、調停、訴訟など)がなされるおそれがあることを察知し、むしろ法的手続をする前に問題が解決できる可能性が高まるからです。任意交渉で解決できれば、余計な労力やコストもかからずにすみます。
弁護士から入居者にコンタクトを取ってもらうことで、弁護士費用がかかっても弁護士をつけて滞納家賃の回収にのぞもうとする本気度が相手方に伝わります。その結果、滞納家賃の支払いに素直に応じてもらえる確率が高くなるでしょう。
もし交渉での家賃回収がうまくいかずに裁判手続きをすることになっても、裁判手続きやその後の強制執行がスムーズにできます。裁判手続きをするには法的知識が欠かせませんし、さまざまな書類や資料を準備することも必要です。できれば任意交渉の段階から弁護士についてもらえれば、事情がわかっているので裁判でも今までの経緯や事情をふまえて主張を展開し、有利な判決を得ることができるでしょう。
滞納家賃の回収は骨の折れる作業ですが、だからといって何度も督促したりカギをだまって交換したりと感情的に対応してしまっては逆効果です。法的に正しい手続きを行い冷静に対応するためにも、滞納家賃の回収は弁護士に依頼されることをおすすめします。