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    公開日:2021.03.25
    更新日:2022.06.27
    医療費にも時効がある?! 未払いの医療費を回収する方法と注意点とは

    医療費にも時効がある?! 未払いの医療費を回収する方法と注意点とは

    入院・手術をともなう治療をすると、医療費が高額になる傾向があります。しかし、「そんなに大金は払えない」「持ち合わせがない」などと言って支払ってもらえず、お困りのクリニックや病院は少なくありません。古いデータにはなりますが、平成17年に患者負担金の未収金について全国の医療施設で調査が行われたところ、「未収金あり」と回答した施設は全体の93.5%を占めました。未収金合計額も、およそ220億円にものぼるそうです。

    医療費にも消滅時効がありますが、時効が成立しないようにするにはどうすればよいのでしょうか。未払い医療費の回収方法とあわせてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

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1、医療費の消滅時効は何年?

他の金銭債権と同じように、医療費にも消滅時効があります。消滅時効は以前、債権の種類別・職業別に細かく分かれていましたが、改正民法では統一されることとなりました。

  1. (1)旧民法では3年

    令和2年3月31日以前に施行されていた旧民法では、民間の病院や個人経営のクリニックの医療費や薬代は「医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権」(旧民法170条1号)にあたります。この「医師や助産師の報酬」の消滅時効は3年と定められていました。一方、地方自治体が運営する公立病院の医療費は、地方自治法236条1項、会計法30条でいう「公債」にあたり、消滅時効が5年となると考えられてきました。

    しかし、平成17年に最高裁で「公立病院で行われる診療は私立病院での診療と本質的には同じなので、公立病院でも診療費にかかる債権の消滅時効は3年と解すべきである」との判決が下されました。その後は、公立病院でも医療費や薬代の時効は3年とされています。

  2. (2)新民法では5年に

    新民法では、原則として消滅時効は以下のとおり規定されました。

    ●債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間
    ●権利を行使することができる時から10年間

    のうち、早く到来したほうが消滅時効となります(新民法166条1項)。

    たいていの場合、支払期限は把握できているものなので、「気がついたら支払期限が過ぎていた」ということはあまりないと予想されます。したがって、実質的には「消滅時効は支払期限から5年」と考えてよいでしょう

    ただし、消滅時効が5年になるのは、改正民法が施行された令和2年4月1日以降に生じた債権のみです。令和2年3月31日以前に生じた債権の場合は旧民法が適用され、時効も3年となるので注意しましょう。

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2、患者から未払いの医療費を回収する方法は?

患者から未払いの医療費を回収する方法は複数ありますが、ここでは代表的なものを4つ紹介します。

  1. (1)メール・電話で請求する

    金額が少額の場合は、まずはメールや電話などで支払いの催促をします。一番手間暇やコストのかからない方法ではありますが、心理的な強制力が少ないのがデメリットです。言った・言わないのトラブルを防ぐために、送信したメールは保存し、電話のときも音声を録音しておきましょう

  2. (2)記録が残る方法(内容証明郵便など)で督促状を送付する

    メールや電話で効果がなければ、督促状を作成して送付します。督促状は1度きりではなく、複数回送るとよいでしょう。その際に、コンビニなどで支払える振込用紙を添えておくと、債務者が支払をする心理的ハードルが下がることがあります(ただし、内容証明郵便では振込用紙などを同封することはできません。)。
    督促状の内容は、最初は「医療費のお知らせ」など穏便な内容にします。そして徐々に、具体的な金額や支払期日を明記するほか、「法的措置も検討する」などの文言を入れるなど内容を重いものにしていきます。

  3. (3)健康保険の強制徴収制度を利用する

    患者さんが健康保険に加入している場合は、強制徴収制度が使えます。強制徴収制度とは、医療機関が医療費を回収するために一定の努力をしたものの、患者側が支払おうとしない場合、保険者(保険組合)が未収金を徴収し医療機関に支払う制度です。
    ただし、効果の有無を問わず2週間に1回は患者さんに内容証明郵便を送付しなければならず、効果がない場合は未払い医療費の回収手段としてはあまり現実的ではありません。

  4. (4)弁護士に依頼する

    債権回収を弁護士に依頼する方法もあります。弁護士が代理人として未払いの医療費を支払ってもらうよう交渉することで、素直に応じてもらえる可能性が高くなります

    また、債権回収会社(サービサー)に依頼する方法もありますが、債権回収業務を行えるのは、法務大臣の許可を受けている民間業者となりますので、無許可の債権回収業者には注意が必要です。その点、弁護士であれば法的な制限を受けることなく、すべての債権に対して回収業務を行うことが可能です。

3、医療費の時効を完成猶予・更新する方法は?

先述のとおり、医療費にも時効がありますので、時効の成立を阻止しなければなりません。ただ、請求書や督促状を漫然と送っているだけでは、時効の成立は阻止できないのです。では、具体的にどのように対応すればよいのでしょうか。

  1. (1)内容証明郵便で催告する

    まずは、相手方に一定の行為を要求する「催告」と呼ばれる手段をとります。催告は「督促」と似たような意味ですが、催告のほうが「○月○日までに入金が確認できない場合は法的措置を取る」など、より厳しく催促するニュアンスがあります。催告をすれば、6か月間時効の完成を猶予する効果があります

    なお、催告状は、基本的には内容証明郵便を利用して送付することが望ましいといえます。内容証明郵便とは、だれがだれにどのような内容の文書を送付したのかを郵便局が証明してくれるものであり、訴訟や調停でも有力な証拠になります。また、弁護士の名前で内容証明郵便を送付すれば、こちらの本気度が伝わり、支払に応じてくれる可能性も高くなります。

  2. (2)債務を承認してもらう

    債務者に債務を承認してもらうことでも、時効の完成が猶予できます。未払いの医療費を一部でも支払うと、債務者が債務の存在を承認したことになりますので、分割払いに応じて少額ずつでも支払ってもらうようにするとよいでしょう。また、患者が債務を承認したことをあとから証明できるように、文書で証拠を残しておくことも重要です。

  3. (3)支払督促を利用する

    催告をしても効果がなければ、支払督促の利用を検討しても良いでしょう。支払督促とは、裁判所に申し立てることで裁判所を通じて督促をしてもらう手続きのことです。費用は訴訟の半額程度で、訴訟のように期日のために出廷する必要がないのが支払督促のメリットです。債務者から2週間以内に異議申し立てがなければ、裁判所が支払督促に仮執行宣言を付すことで強制執行ができるようになります
    ただし、債務者側から異議申し立てがあれば、通常の裁判に移行することに留意する必要があります。

  4. (4)民事調停を申し立てる

    債権回収のために、民事調停を申し立てる方法もあります。民事調停では、裁判官1名と一般から選ばれた有識者2名からなる調停委員会が、当事者双方から話を聞いたうえで解決策を提示します。調停は非公開で行われるので、秘密は守られます。
    調停が成立すれば債務名義を持つ調停調書が交付されますが、調停不成立になれば通常の訴訟に移行するのが通常です

  5. (5)民事訴訟を申し立てる

    最終的には、民事訴訟を申し立てて相手方と争うことになります。
    債権の発生や存在の有無に争いがある場合に決着をつけられるのがメリットですが、時間もコストも非常にかかる点がデメリットです。債権回収はスピードが命なので、時間がかかりすぎると相手方の資力が悪化する可能性もあります。訴訟にするのは、債権回収に十分に時間がかけられる場合・費用倒れにならない場合に限ったほうがよいでしょう

  6. (6)強制執行

    調停調書や判決書などの債務名義があれば、患者の財産を強制的に差し押さえて未払いの医療費を回収することができます。強制執行ができるのは、個人の銀行口座のほか、給与、車、住宅などの不動産などです。

4、未払い医療費の回収における5つの注意点

未払いの医療費を回収する際には、以下の5つの点に注意しましょう。

  1. (1)医療費が未払いでも診療拒否はできない

    「医療の支払いが期待できない患者は診療したくない」とお考えの医療関係者の方も少なくないでしょう。しかし、診療拒否は患者の命にかかわることもあるため、医療費が未払いでも診療拒否はしてはいけないことになっています。

    厚生労働省医政局長からの通達によれば、医師・歯科医師は診療の求めがあった場合、正当な理由なく診療を拒んではならないという「応召義務」があります。そのため、以前に医療費の未払いがあったとしても、そのことのみをもって診療しないことは正当化されません。他方で、「支払能力があるにもかかわらず悪意を持って支払おうとしない場合には、診療しないことが正当化される」とされています。

    つまり、医療費の未払いがあったこと自体は診療を拒否する理由にはならないものの、支払能力があるのにわざと支払いを拒否する場合には診療を拒否するのもやむをえない、というわけなのです。

  2. (2)保証金・連帯保証人制度を利用する

    医療費の未払いを防ぐために、保証金制度や連帯保証制度を利用するのもおすすめです。保証金制度とは、入院・手術など医療費が高額になると見込まれる場合に費用の一部を前払いしてもらう制度です。連帯保証人制度とは、医療費が未払いとなった場合に代わりに支払ってくれる人を決めておく制度のことをいいます。連帯保証人がいれば、もし治療終了後に患者が医療費を支払えない場合には、連帯保証人に請求することで医療費を回収することが可能です。

  3. (3)「医療ミスがあったから支払わない」という場合は精査が必要

    患者が医療費を支払わない理由として「医療ミスがあったから」と主張することがあります。患者がのらりくらりと請求をかわしてきて急にこのようなことを言いだしたときには、真実ではない可能性が高いでしょう。しかし、最初からこのような主張をしてきた場合は、院内でカルテなどをきちんと精査することが必要になります。医療ミスが本当にあった場合は損害賠償問題に発展することもあるからです。医療ミスを主張された場合は、院内で調査するとともに、弁護士に対応の仕方について相談したほうがよいでしょう。

  4. (4)時効期間が過ぎても時効が成立するとは限らない

    時効期間が過ぎると、「もう未払いの医療費は請求できない」とお考えの方も多いのではないでしょうか。しかし、消滅時効期間が過ぎてしまっても、患者側が「もう時効だから支払わない」と主張しない限り、実は時効は成立しないのです。これを「時効の援用」といいます。時効期間が過ぎたからと言ってすぐにあきらめる必要はなく、患者が時効の主張をしてくるまでは、あきらめずに請求や督促をする姿勢を見せるようにすることが大切です。

  5. (5)違法な取り立てにならないようにする

    「どうしても未払いの医療費を取り立てたい」と思っても、違法な手段を使ってはいけません。たとえば、早朝や深夜に自宅に訪問する、脅迫する、職場にまで電話をかける、家のドアに張り紙をする、家の前で長時間居座るといった行為はすべて違法となります。違法な取り立て行為をすると、かえってこちら側に不利になるので、注意しましょう。

5、まとめ

病院の業務はただでさえ忙しいものですが、未払いの医療費をそのままにしておくと時効が成立し、回収できなくなってしまう可能性があります。
ベリーベスト法律事務所では、未払いの医療費にお困りの病院やクリニックからのご相談を受けつけています。状況をお伺いし、消滅時効期間を考慮に入れながら、最善の解決策を提案いたしますので、まずはお気軽にご相談ください。

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